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執筆者の写真Kazuma Sahara

今、研究者が注目するビタミンD。深刻的な不足と秘めたる機能。

更新日:2021年2月27日


『ビタミンD』について、あなたはどんなイメージをお持ちでしょうか?


ご存知の方は「カルシウムの吸収を促進する」という "脇役" のような印象をお持ちだったのではないでしょうか?これまで栄養・健康系の情報では大きく紹介されることが少なかった栄養素の1つかと思います。

このビタミンDが最近、これまで知られていなかった新しい機能があることが分かってきました。


その背景には世界的なビタミンD不足があります。それは、日本でも。


どうしてビタミンDが注目されているのか?

どうして不足するといけないのか?


多くの研究データを踏まえながら、ビタミンDの現状・機能・摂取方法を紹介します。

 

主な供給源は『魚』と『日光』

栄養素の中でもとても特徴的なのがこのビタミンD。理由として2つの特徴があります。

  1. 食品からの摂取はほぼ「魚」から

  2. 光を浴びることで作ることができる

魚以外にもキノコ類やビタミン強化食品に含まれますが、魚の方がより効果的に摂取できます。

具体的な魚の種類や食べ方は最後にお伝えします。


もう1つの供給源が『日光』です。

日光(紫外線)が皮膚に照射されると、コレステロールからビタミンDが作られます。

まるで植物が酸素を作る "光合成" と同じようなことですね。


食事からのビタミンDと、日光によって作られたビタミンDが体内で合わさって、様々な機能を果たしてくれます。

 

世界でも、日本でも不足しているビタミンD

世界的にもビタミンD不足は問題となっており、ヨーロッパでは40%もの方が不足状態にあると2016年に報告されています。


その問題は日本でも。

1,600人強の日本人の方対象にした研究では、全体で81.3%もの方が不足しているとされています。

屋外にいる時間も比較的長いプロサッカー選手を対象にした研究でも不足は顕著でした。これらから、食事からのビタミンD摂取不足の懸念されます。


公表されている最新の国民健康栄養調査では、20歳以上のビタミンDの平均摂取量は7.3µg/日でした。

ビタミンDは日光を浴びることでも作られるので、運動不足や過度に紫外線を避けることもビタミンD不足を助長していると考えられます。国民健康栄養調査では運動・歩行数の増減はないとされているものの、目標とされる数字とは未だに大きな解離があります。


これらを踏まえ、2020年に改訂された食事摂取基準ではビタミンDの目安量は8.5µgに引き上げられています。


ビタミンDは個人だけでなく、社会的なレベルでも改善していく必要があると言えます。

 

骨の材料の吸収を促す

前述のように、ビタミンDの主な働きは体内のカルシウム・リンのバランスを保つことです。


「カルシウムは骨の成分」として大切なことはご存知だと思います。それ以外にも大切な働きとして、カルシウムは筋肉の興奮(収縮)やインスリンなどの分泌細胞の分泌信号としても働きます。血液中のカルシウム濃度が低すぎても、高すぎてもこれらの働きに "誤作動" を生むため、常に一定に保つ必要があります。


ビタミンDは血液中のカルシウム濃度が低くならないよう、腸からの吸収や腎臓で排出される予定だったカルシウムをもう一度血液に戻す(再吸収)働きを促します。

血液中のカルシウム濃度が低下してしまった場合、副甲状腺ホルモン(パラトルモン)を分泌されます。このホルモンがビタミンDをより活性化し、更にカルシウムの吸収を促します。


ビタミンDをはうまくカルシウムの需給を調整する大事な“旗振り役”として活躍してくれています。

 

カルシウム調節以外の3つの機能

最近の報告ではビタミンDがカルシウム・リンの調節以外にも注目される機能がわかってきました。その機能が以下の3つです。

  1. 筋肉への機能

  2. 免疫への機能

  3. がんへの機能





1.筋肉にプラス?

ビタミンDはカルシウムの吸収を促す際、腸や腎臓などの細胞のDNAにある "スイッチ" を押すことで、吸収に必要な "カルシウムの運び屋" を作り出します。それに似た仕組み筋肉にもあることがわかってきました。


ビタミンDが筋肉内の "スイッチ" を押すことで、筋肉の大きさを調節することが報告されています。

ビタミンDが不足するアスリートにビタミンDを補給することで、パフォーマンスに良い影響をもたらした報告もあります。高齢者対象の研究ではビタミンDと転倒にも関連が見られています。転倒の原因の1つに筋力不足があげられていることから、若い方だけでなく高齢の方まで幅広くビタミンDの補給のメリットがあると言えます。


2.がんの増殖を抑える

2018年に発表された日本の約33,736人を対象にした大規模な調査報告では、以下のように結論づけています。

In this large prospective study, higher vitamin D concentration was associated with lower risk of total cancer. These findings support the hypothesis that vitamin D has protective effects against cancers at many sites.
この大規模な前向きコホート研究では、血中ビタミンD濃度がより高さは全てのがん死亡リスクの低下と関連していた。これらの発見は、「ビタミンDが多くの部位でがんへの保護効果がある」という仮説を支持する。

ビタミンDがなぜ、がんに効果があるのか? これはがんの細胞にもビタミンDの“スイッチ”があるためです。そのスイッチが押されれば、がん細胞自身の増殖を抑制をさせると考えられています。


「ビタミンDがたくさんあれば、がん細胞ができたとしてもすぐに対処しやすくなる。」

そのように考えられれば、未病のためにビタミンD補給の意味の1つにもなりますね。



3.感染症も予防?

日本の子どもを対象にした報告ではありますが、

In conclusion, our study suggests that vitamin D3 supplementation during the winter season may reduce the incidence of influenza A.
結論として、研究では冬季のビタミンD₃補給はインフルエンザA型の感染を減らすかもしれないと示唆する。

冬季は日光(紫外線)が少なくなるため、ビタミンDも不足しがちになります。ビタミンDが不足状態にある時に補給をすると感染症(この場合、インフルエンザ)の発症リスクを抑える可能性があると報告。


ただし、不足している方に効果があるということ。

充足している方に更なる予防効果があるとは言えないことに注意が必要です。サプリメントで多く摂ってもあまり効果は望めないかもしれません。


また、インフルエンザA型には効果が示唆されたものの、B型では効果が示されませんでした。

この効果は特異的(効果が利くものが限られる)なものも考えられます。


※1ビタミンD₃は動物(≒魚)由来のビタミンDになります。

※2新型コロナウイルス感染症の予防効果は不確定ですが、ビタミンD不足と重症化予防との関連が示唆されている報告もあります。

 

食事摂取基準は最低ラインとして

2020年版の食事摂取基準ではビタミンDを目安量は8.5µg/日になりました。これは前回の数値(5.5µg/日)よりも50%以上も上昇しました。しかし、これでも前述のような効果を期待するには物足りないでしょう。


海外の基準や論文では20~40µg/日の摂取で、筋機能や骨の健康への効果が期待されています。食事摂取基準の「8.5µg/日」という数値は、いくつかの食事調査で中央値(8.3µg/日)を参考にしているため、「骨粗鬆症などの予防」といった効果が期待できる数字とはイコールではありません。

2015年版の骨粗鬆症ガイドラインでは1日10~20µgの摂取が推奨されています。これをもう1つの参考にしてながら十分に摂る方が良いでしょう。


日光を浴びる時間が少ない屋内での運動がメインの方、オフィス・家での仕事が多い方、魚を積極的に召し上がれていない方は特には是非ビタミンDを意識した食事をして欲しいと思います。

 

食品から摂るには『魚』しかない

といっても過言ではありません。


それほど特殊なのがビタミンD。キノコ類の中でも最も摂りやすい舞茸でも、4.9µg/100gと多いとは言えません。毎日100g以上食べるのは現実的ではないでしょう。ビタミンD強化牛乳でも200ml(コップ1杯)で2µg強とたくさん摂れるとは言い難いものです。


平成28年の国民健康・栄養調査でもビタミンDの総摂取量の8割は『魚介類』から得ているという特殊な栄養素でもあるため、世界・日本といった国レベルで不足が疑われる所以も頷けます。


ビタミンDの含有量は、魚の種類によって100g当たり5µg~40µgと幅があります。主菜として魚1切れを召し上がれ100g前後は取れますので、1日に1食は魚を食べて頂くと食事摂取基準の量ほどが摂れるでしょう。


特にビタミンDが多い魚は以下の通りです。(100g当たり・生の状態)

 
  • カジキ:38.0µg

  • 鮭(サケ):33.0µg

  • 鰯(イワシ):32.0µg

  • 鰻(ウナギ):18.0µg

  • 秋刀魚(サンマ):14.9µg

  • 鰹(カツオ):9.0µg

  • 鯵(アジ):8.9µg

  • 鰤(ブリ):8.0µg

  • ビンチョウマグロ:7.0µg

  • 鰆(サワラ):7.0µg

  • 鯖(サバ):5.1µg

※しらす干し:4.6µg(大さじ1杯強:10g)

 

特に多いのが上位3つカジキ・鮭・鰯ですね。これらをうまく食卓に取り入れることで、ビタミンDの摂取量を高めることができます。

オススメするこれらの魚の調理(保存)法もご紹介します。


鮭は西京漬けなどにして冷凍しておくと美味しく召し上がれます。特にビタミンDが多い魚の1つでもあるので、常に冷凍庫にあると「足りてないだろうな。」という時に便利です。

カジキ・鰯は塩コショウして薄力粉(又は片栗粉)をまぶしてムニエルに。


「ビタミンDが多い魚は」と言われると、多くの場合は「脂の多い魚」と一括りにされます。

脂の多い代表格として「鯖」を思い浮かべる方も多いと思います。

しかし、意外に鯖は他の魚に比べて少ないことが注意点です。DHA/EPAといったω3脂肪酸の摂取には良い魚ですが、鯖ばかりだとビタミンDが不足しがちになりそうです。


「食事はバランスよく」とよく言われますが、「魚の種類もバランスよく」召し上がってみてはいかがでしょうか?

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